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第66話 深夜の侵入者①

Author: 花柳響
last update Last Updated: 2026-01-17 06:00:35

 征也が日本を発ってから、三度目の夜が更けようとしていた。

 たった三日。言葉にしてしまえば指折り数えるほどの短い時間だというのに、主を失った屋敷はあまりにも広く、流れる時間だけが澱んだように重くのしかかってくる。

 窓の外は、また雨が降っていた。

 この季節特有の、肌にまとわりつくような湿気を孕んだ風が、昼も夜も関係なくガラスを叩き続けている。

 私は、征也からきつく言いつけられた言いつけを破らぬよう、一歩も外には出ず、この豪奢な鳥籠の中で息を潜めていた。

 一人で過ごすには広すぎるリビングをあてもなく歩き回り、書庫に並ぶ革張りの背表紙を指でなぞっては、また元の場所に戻す。時折、どこかで鳴る固定電話の電子音にびくりと肩を震わせては、それが自動的に秘書室へ転送されていくのを確認して、ほうと息を吐く。

 電話に出ることは許されていない。外の世界と繋がる手段は、すべて彼によって徹底的に管理されているからだ。

「……暇、だなあ」

 ぽつりと漏れた独り言が、がらんとした空間に吸い込まれて消えていく。

 暇だなんて、かつての私なら喉から手が出るほど欲しかった贅沢な悩みだ。母の入院費を工面するために睡眠時間を削り、皿洗いや清掃のバイトを掛け持ちして泥のように眠っていた日々が、すでにはるか遠い昔のことのように思える。

 けれど、今のこの「空っぽの時間」は、体を酷使する疲れよりもずっと深く、私の心を内側から削り取っていくようだった。

 何もしていないと、思考はどうしても悪い方へ、暗い沼の底へと引きずり込まれていく。

『神宮寺が嗅ぎ回っている』

 出発の朝、征也が残していった低い声が、呪いのように耳にこびりついて離れない。

 蒼くん。かつての幼馴染であり、優しい記憶の中にいたはずの彼。

 けれど今の彼は、どうして征也をそこまで憎むのだろう。そして、なぜ私ごときにそこまで執着するのか。

 征也は彼を「ネズミ」と呼んだ。その響きに含まれる不吉な予感が、背筋を冷たい指先でなぞっていくような錯覚を覚えさせる。

 私は無意識のうちに、首元に巻いたシルクのスカーフの上から、うなじにある痕を指で押
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